ハヴィガーストの発達課題とは?6つの成長段階でわかる人生の成長テーマ

「人は、年齢に応じて乗り越えるべき課題がある」と聞いたことはありませんか?
心理学者ロバート・ハヴィガーストは、人生を6つの段階に分け、それぞれの時期に応じた「発達課題」があると提唱しました。
たとえば、乳幼児期には「歩行」や「排泄の自立」といった基本的な生活習慣、青年期には「職業選択」や「価値観の確立」、老年期には「引退への適応」など、その内容は実に多様です。
キャリア支援や教育、子育てに関わる方にとっても、人生の節目を見つめ直すヒントが詰まっています。

テンロク
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ハヴィガーストとは?その理論的背景
はじめにハヴィガーストについて紹介します。
アメリカの教育学者・心理学者。
ハーバード大学やシカゴ大学で教鞭をとり、教育、発達、社会問題に関する多くの研究を行いました。特に人間の一生を6つの発達段階に分け、それぞれの段階で乗り越えるべき「発達課題」を提唱したことで有名です。
ハヴィガーストは、「発達段階には、その時期に達成しておくことで次の段階の発達が円滑に進む課題が存在し、逆に達成に失敗するとその後の発達に支障をきたす可能性がある」と考えました。
これは、人間の精神的・心理的成長における重要なポイントを明らかにするものであり、個人の成長過程における課題や特徴を理解するための有効な指標とされています。
「発達課題」という概念は、1930年代にアメリカの児童心理学者や教育者たちによって提唱されました。
ハヴィガーストはこの概念を発展させ、1940年代以降、人生をいくつかの発達段階に分け、それぞれに応じた課題を体系的に提示しました。
ハヴィガーストの発達課題とは?
ハヴィガーストは、発達課題が以下の3つの要因から生じると述べています。
- 身体的成熟(例:思春期の身体変化)
- 文化的期待・社会的役割(例:就職や結婚)
- 個人の価値観・目標(例:自分らしい人生を送りたいという願望)
発達課題の概念は、次のような点で重要です。
- 成長プロセスを体系的に理解できる
- 教育・子育て・キャリア支援で支援の方向性を考える材料になる
- 自己理解やライフデザインにも役立ち、今の悩みを前向きに捉えられる
人生を6つの段階に分ける理由
ハヴィガーストは、人間の発達を以下の6つのライフステージに分けています。
乳幼児期(0〜6歳)
児童期(6〜12歳)
青年期(12〜18歳)
壮年初期(18〜30歳)
中年期(30〜60歳)
老年期(60歳以降)
身体的・心理的変化が各段階で異なるため、それに応じた課題も変わるため、年齢に応じた社会的期待や役割がある(例:学校・就職・子育て・退職など)
成長の“つまずき”を早期に把握し、支援や介入を行いやすくするため、この分け方は個人の成長や社会参加の“道しるべ”となります。
ハヴィガーストの6つの発達段階
6つの段階について代表的な例になります。
発達段階 | 主な年齢層 | 代表的な課題例 |
---|---|---|
乳幼児期 | 0〜6歳 | 歩行、排泄、話すこと、愛着形成 |
児童期 | 6〜12歳 | 学習、自立、友人関係、道徳性の発達 |
青年期 | 12〜18歳 | 職業選択、価値観の確立、親からの自立 |
壮年初期 | 18〜30歳 | 結婚、家庭生活、職業への適応 |
中年期 | 30〜60歳 | 子の養育、経済的安定、余暇の充実 |
老年期 | 60歳以降 | 引退への適応、身体の衰え、人間関係の再構築 |
年齢別の発達課題について
各時期についての詳細について紹介します。
乳幼児期 (0~5歳) | ・歩行の学習 ・固形の食べ物をとることの学習 ・排泄習慣の自立 ・生理的安定の確立 ・性の相違および性の慎みの学習 ・話すことの学習 ・社会や物事についての単純な概念形成 ・両親、兄弟、他人と自己を情緒的に結びつける学習 ・「正」と「不正」を区別することの学習と良心の発達 |
児童期 (6~12歳) | ・普通の遊戯に必要な身体的技能の学習 ・成長する生活体としての自己に対する健全な態度の養成 ・同年齢の友達と仲良くすることの学習 ・男子(女子)としての正しい役割の学習 ・読み、書き、計算の基礎的技能を発達させる ・良心、道徳性、価値の尺度を発達させる ・人格の独立性を達成すること(自立的な人間形成) ・社会的集団に対する態度を発達させる |
青年期 (13~18歳) | ・同年齢の仲間との洗練された新しい関係を発達させる ・自己の身体構造を理解し、男(女)性としての役割を理解 ・両親や他の大人からの情緒的独立 ・経済的独立に関する自信の確立 ・職業の選択および準備 ・結婚と結婚生活の準備 ・公民として必要な知識や論理的思考力を育む ・社会的に責任のある行動を求め、かつ成し遂げること ・価値観や世界観を形成し、他者と調和しながら自分の信念を確立する |
壮年初期 (19~30歳) | ・配偶者の選択 ・結婚相手との生活の学習 ・家庭生活の出発(第一子をもうける) ・子どもの養育 ・家庭の管理 ・仕事に就く ・市民的責任の負担(家庭外の社会のための責任を負う) ・適切な社会集団の発見・認識 |
中年期 (30~60歳 | ・大人としての市民的社会的責任の達成 ・一定の経済的生活水準の確立と維持 ・ 十代の子供達が、頼できる幸福な大人になれるよう援護 ・大人の余暇活動を充実させること ・自分と配偶者を一人の人間として結びつけること ・中年期の生理的変化を理解し、これに適応すること ・老年の両親への適応 |
老年期 (60歳以上) | ・ 肉体の変化と健康の衰退に適応すること ・引退と減少した収入に適応すること ・配者の死に適応すること ・自分と同年輩の老人たちと明るい親密な関係を確立する ・老化に適応し、心の備えを整える |
教育や支援の現場での活用方法
ハヴィガーストの発達課題は、人の一生を通じた成長の「道しるべ」となる理論です。各発達段階に応じた課題を理解することで、支援者や教育者は対象者の“今の成長課題”を適切に捉え、より効果的な支援や指導が行えるようになります。
以下では、具体的な活用シーンを見ていきましょう。
子育てや教育にどう活かすか
- 子どもの年齢に応じた発達課題を把握することで、その時期にふさわしい育成目標を設定できる
- 学校教育では、学力だけでなく人間形成や社会性の育成にも活用でき、学級経営や個別指導の指針になる
- 発達が遅れているように見える子に対しても、「今どの課題につまずいているのか」を客観的に捉えやすくなる
- 幼児に対して「情緒的な安定」「言語の習得」などの課題を意識した保育
- 小学生に対して「自立」や「道徳性の育成」を段階的に支援する教育カリキュラム
キャリアカウンセリング・コンサルティングとの関連
- 発達課題は、**人生の転機やキャリア選択の背景にある“心理的課題”**を読み解く手がかりになる
- 特に青年期や中年期のCL(クライエント)に対しては、未完了の課題が現在の職業選択や人間関係に影響している場合がある
- キャリアカウンセラーは、「いまCLがどの段階のどの課題に直面しているか」を踏まえた上で、相談者に合わせた支援方針を立てることができる
- ミッドキャリア層に対して「社会的責任」「家庭との両立」などを支援の軸にする
- 20代の相談者に対して「職業の選択」だけでなく「自立」「価値観の確立」といった課題を一緒に探る
高齢者支援や福祉現場での事例
- 老年期の課題である「退職への適応」「身体の衰えへの受容」「配偶者の死への向き合い」などは、高齢者福祉の現場でしばしば直面するテーマ
- 支援者は、単にサービスを提供するのではなく、高齢者がその課題にどのように向き合っているかに配慮した関わりが求められる
- 心理的な準備態勢や人間関係の再構築を支えることが、QOL(生活の質)の向上にもつながる
- デイサービスで「社会的交流」や「役割感」を取り入れたプログラム設計
- 配偶者を失った高齢者へのグリーフケアや傾聴支援
まとめ|ハヴィガーストの発達課題を理解することの意義
ハヴィガーストの発達課題は、人生を通じて人がどのような成長を遂げるのか、またどのような課題に直面するのかを示す「人生の設計図」とも言える理論です。ただ年齢に応じた通過点として捉えるのではなく、その人らしい成長や選択に寄り添うための視点として活用することに大きな意義があります。
人生の各段階に寄り添う視点を持つ
私たちは、誰もが人生の中でさまざまな節目や困難に直面します。
そのとき、発達課題の視点をもつことで、「今この人はどんな成長段階にいて、何に向き合っているのか」を理解しやすくなります。
教育現場でも、家庭でも、支援の場でも、「今この人にとって必要な課題は何か」を見立てられることは、よりよい関わりや支援の第一歩になります。
単なる年齢による区分ではなく、その人の背景や状況を踏まえた柔軟な理解を持つことが大切です。