キャリアコンサルタントが知っておきたい!動機づけ理論(職務満足)のまとめ

ビジネスの成果を高める方法の一つに動機付け理論があります。職務満足はキャリアと密接に関連しているため、キャリアコンアルタントを目指す人にとっては必要な情報です。
本記事では、動機づけ理論(職務満足理論)に関する理論と提唱者について詳しく解説します。

キャリアコンサルタント勉強中 アイ
新卒から大手製薬企業で12年間勤務。医療、仕事、子育てにおけるメンタルケアに課題を感じ、2025年4月から臨床心理系大学院に進学。
動機づけとは?
はじめに「動機づけ」の定義を紹介しておきます。
動機づけは、人間を含めたあらゆる動物の行動の原因です。動物が行動を起こしている場合、何らかの動機づけがあると考えられます。
例えば、この文章を見ているあなたも、「キャリアコンサルタントの試験に合格したい」「部下のモチベーションを上げたい」という何らかの動機づけがあるために、このブログにたどり着いたのではないでしょうか?
キャリアコンサルティングにおける動機づけは、モチベーションや職務満足といわれ、相談者のキャリア形成の重要な要因です。
モチベーションを持って働き、何らかの職務満足が得られなければ、キャリアを形成し続けられないからです。
以下に、キャリアコンサルタントの試験にも頻出の動機づけ理論に関連した理論家について記載していきます。
マズローの欲求階層説
まず圧倒的先駆者として有名なのが、欲求階層説(欲求5段階説)を提唱したマズローです。
マズローは、人間は自己実現に向かって絶えず成長していくとの人間観に立ち、人間の欲求を低い次元から高い次元へと5つの段階に分類する欲求階層説を提唱しました。
マズローの5段階欲求の内容は次のとおりです。

欲求の段階 | 内容 |
---|---|
生理的欲求 | 睡眠、休息、食欲などの生命の維持に必要な欲求 |
安全の欲求 | 安全な環境、雇用の確保などの安全、安心に対する欲求 |
所属と愛情の欲求(社会的欲求) | 集団の一員として認められたい、人から愛されたいという欲求 |
自尊と承認の欲求 | 名声や権威、地位を得たい、他者から認められたい、尊敬されたいという欲求 |
自己実現の欲求 | 自分らしさや能力を最大限に発揮したいという欲求 |
多くの場合、この5つの欲求を低いものから高いものへ順に満たそうとする心理的な欲求が生じるとしており、上位の欲求は下位の欲求が満たされて初めて発生する(欲求の不可逆性)とマズローは考えました。
また、この5つの欲求は欠乏欲求と成長欲求の2つに分類されます。
「生理的欲求」「安全欲求」「所属と愛情の欲求」「自尊と承認の欲求」
「自己実現欲求」
マズローの欲求階層説は、後に、様々なかたちで発展していきます。
アルダーファーのERG理論
アルダーファー(Alderfer、アルダーファ)は、マズローの欲求階層説を修正、発展させ、「生存欲求(Existence)」「関係欲求(Relatedness)」「成長欲求(Growth)」の3階層からなる、ERG理論を提唱しました。
マズローとアルダーファーの理論の比較を以下にまとめます。
マズロー | アルダーファー | 内容 |
---|---|---|
生理的欲求 | 生存(存在)欲求(E:existence) | 物質的・生理的な欲求をすべて含み、飢えや賃金など人間として存在するための欲求 |
安全の欲求 | ||
所属と愛情の欲求 | 関係欲求(R:relatedness) | 家族・上司・友人などと人間関係を良好に保ちたいという欲求 |
自尊と承認の欲求 | ||
自己実現の欲求 | 成長欲求(G:growth) | 自分や自分の環境に対して創造的・生産的でありたいとする欲求 |
マズローとの違いは、低次欲求が満たされることは、高次欲求の必要条件ではなく、それぞれの欲求は同時に存在することもあれば、高次から低次への欲求が現れることもあるとした点(欲求の可逆性)です。
マクレガーのX理論Y理論
マクレガーは、労働場面における動機づけに関わる人間観として、X理論とY理論という2つの対立する理論を提唱しました。
【X理論】
X理論では「人は本来怠け者で、仕事が嫌いであり、できるだけ楽したいと自己中心的になるものである」という考え方を前提とします。
この場合、労働者を命令や強制で管理し、目標が達成できなければ罰を与えるという経営になり、企業と個人との関係は従属的になります。
マズローの5階層との対応では、X理論は生理的欲求、安全の欲求を多く持つ人間の行動モデルに分類されます。
【Y理論】
Y理論は「人は本来働きたがる生き物で、自己実現のために自ら行動し、責任をもって自発的に仕事をすることを望むものである」という考え方を前提とします。
この場合、魅力のある目標と責任の機会を与え、労働者の自主性を尊重する経営になり、企業と個人の関係はWin-Winで協力的になります。
マズローの5階層との対応では、Y理論は自尊と承認の欲求や自己実現の欲求を多く持つ人間の行動モデルに分類されます。
マズロー | マクレガー |
---|---|
生理的欲求 | X理論 | Y理論 |
安全の欲求 | |
所属と愛情の欲求(社会的欲求) | |
自尊と承認の欲求 | |
自己実現の欲求 |
マクレランドの達成動機理論
マクレランドは、職場での行動には、「達成動機(欲求)」「親和動機(欲求)」「権力動機(欲求)」の3つのうちいずれかの動機が存在するという達成動機理論(達成欲求理論)を提唱しました。のちに、4つ目となる「回避動機(欲求)」も追加されています。
達成動機(欲求)が強い人:自分の能力を高め、目標を達成することを好む
親和動機(欲求)が強い人:他者との良好な関係を築くことを好む
権力動機(欲求)が強い人:他者への影響力を持ち、指示する立場でいることを好む
回避動機(欲求)が強い人:挑戦やリスクを避け、安定した環境を好む
マズローの5階層との対応では、マクレランドの「達成動機(欲求)」がマズローの「自己実現の欲求」に対応するとされています。
しかしながら、マクレランドは、達成動機が強すぎる場合は、自己実現を阻害する可能性があることも指摘しています。
ハーズバーグの二要因理論
ハーズバーグは、仕事に対する満足度と不満足度を規定する要因には、「衛生要因」と「動機づけ要因」の2つがあるとした二要因理論を提唱しました。
満たされないと不満の要因になるもの。満たされても達成感や満足感は得られない。(例:仕事環境、給与、福利厚生、経営方針、対人関係など)
満たされると満足感が得られるもの。(例:達成感、承認、仕事そのもののやりがい、責任、昇進など)
衛生要因を改善することで、不満を減少させることができても、職務満足は動機づけ要因が満たされることによって初めてもたらされます。
しかし、動機づけ要因だけが満たされていても衛生要因に不満があればモチベーションは上がりません。
動機づけ要因、衛生要因の両方が満たされることでモチベーションが高まり、満足度が向上します。
マズローの5階層との対応では、「衛生要因」は、マズローの「生理的欲求」「安全欲求」「所属と愛情欲求」の一部に対応します。
「動機づけ要因」は、マズローの「所属と愛情欲求」の一部と「自尊と承認の欲求」「自己実現の欲求」に対応します。
マズロー | マクレガー |
---|---|
生理的欲求 | 衛生要因 —— 動機づけ要因 |
安全の欲求 | |
所属と愛情の欲求(社会的欲求) | |
自尊と承認の欲求 | |
自己実現の欲求 |
デシの内発的動機づけ理論
デシは、モチベーション理論における「内発的動機づけ」の研究で有名な人です。
まず、動機づけには外発的動機づけと内発的動機づけの2種類があるとしました。
外部から与えられる報酬や地位、賞賛などを得る、罰などを回避することに対する動機づけ
内的な欲求や興味、関心、向上心などによって自発的に促されて行動することに対する動機づけ
一般的には、内発的動機づけの方が、外発的動機付けより達成水準が高く、獲得された成果の持続性が長いため、望ましいとされています。
では、「内発的動機づけ」はどうすれば生み出すことが出来るのでしょうか?
デシは、内発的動機づけが高まる要素として、「自律性」、「有能感」、「関係性」の3つの欲求をあげています。
これらを感じたときに内発的動機づけが高まるとしています。
内発的動機づけは、外発的動機づけと比較して、自己決定度合いが最も高く、行動の持続性や満足度においてよい結果をもたらします。
これは、デシと同僚のライアンによって「自己決定理論」として提唱されました。
内発的動機づけに影響する2つの効果についても記載します。
アンダーマイニング効果
「役に立ちたい」「達成したい」などの内的動機づけによって行動したことに対して、「報酬を与えられる」「期限を決められる」などの外発的な動機づけによりモチベーションが低下してしまう現象です。
エンハンシング効果
「報酬が得られる」「褒めてもらえる」などの外発的動機づけによって最初は行動していたが、姿勢や考え方に変化が生じ、行動自体から得られる内発的なモチベーションが高まる現象です。
まとめ
動機づけはキャリアを形作る大切な要素となります。動機づけの仕組みを理解し、意識的に活用することで、より充実したキャリア形成の支援ができるかもしれませんね。