サビカスのキャリア構築理論とは?現代でも使えるキャリア理論

現代は、ITテクノロジーの急速な進化、終身雇用・年功序列制度の崩壊、グローバル化などにより社会変化が激しく、予測困難な時代と言われています。
このような時代のことを、VUCA(ブーカ)といい、以下の単語の頭文字をとっています。
- Volatility:変動性
- Uncertainty:不確実性
- Complexity:複雑性
- Ambiguity:曖昧性
社会変化が激しいことに伴って、キャリアを取り巻く環境も常に目まぐるしく変化しています。
そのため、固定的な個人の適性や職業とのマッチングを前提とした従来の理論や検査だけでは対応できない場合があります。

キャリアコンサルタント勉強中 アイ
新卒から大手製薬企業で12年間勤務。医療、仕事、子育てにおけるメンタルケアに課題を感じ、2025年4月から臨床心理系大学院に進学。
マーク・L・サビカスとは?
サビカスはノースイースタン・オハイオ大学行動科学部教授として、長年に渡りキャリア構築理論の開発に取り組んできた人物であり、21世紀のキャリア・カウンセリングを代表するキャリアの理論家です。
キャリア構築理論とは、一人ひとりが過去から現在の経験を踏まえて、職業人生に対して自分らしい価値のある意味づけをしていく一連の過程がキャリアであると考える理論です。
不安定で流動的な時代においては、社会が引いているレールに身を任せてたどるのではなく、自分でキャリアを作り上げる必要があることを説いています。

わたしの推しの理論家です。
サビカスのキャリア構築理論
サビカスのキャリア構築理論を理解するうえで、重要な視点は、以下の3つです。
- 職業パーソナリティ(職業行動のwhat)
- キャリア・アダプタビリティ(職業行動のhow)
- ライフ・テーマ(職業行動のwhy)
順番にそれぞれ解説していきます。
1.職業パーソナリティ(職業行動のwhat)
職業パーソナリティとは、職業行動の観点の1つで「どのような職業が自分にあっているのか?」という問いに対する答えを「それぞれのキャリアに関連した能力、欲求や考え方、興味、価値観」と定義しています。
サビカスは人と環境の適合性は、静的でも固定的でも客観的でもなく、むしろ、人々の解釈や理解によるものであり、容易に変化し、動的で主観的なものとしています。
2.キャリア・アダプタビリティ
キャリア・アダプタビリティとは時代の変化など、環境に合わせて変化を受け入れ、キャリアを適合できる能力のことです。
「どのように職業を選択し、適応していくか?」という問いに対する答えとして、「キャリア・アダプタビリティ(キャリア適応性)」を挙げています。これはサビカスの中心となる概念ともいえます。
サビカスは、キャリア・アダプタビリティを以下のように定義しています。
目まぐるしく環境が変化する時代において、どんな環境にあっても新しい状況に適応してキャリアを作り上げる態度や能力といえます。
ではキャリア・アダプタビリティを向上するにはどのようなことが必要でしょうか?
サビカスはキャリア・アダプタビリティがある人の要件として次の4つを示しています。それぞれの頭文字が「C」であることから、「4C」とも呼ばれています。
- 関心(Concern):将来について考え、未来に備えて計画や準備をしている
- 統制(Control):自分のキャリア構築に責任を持っている
- 好奇心(Curiosity):新しい経験も積極的に挑戦し、職業に関わる情報を探索している
- 自信(Confidence):キャリアを決定し、実行する能力があるという自己効力感がある
自分自身のキャリアに関心を持ち、コントロールし、好奇心を持ち、自信を持っている人は、環境の変化に対応し、現代の予測困難な時代にも適応する可能性が高いといえます。
「アダプタビリティ」は個人のキャリア発達の度合いを最もよく評価できる概念であると主張しています。このようなキャリア・アダプタビリティの向上は、キャリア発達の課題であり、「自己概念を実現すること」につながると言われています。
1950年代、キャリア発達の理論を提唱したのが、アメリカの研究者ドナルド・スーパーです。 その理論を継承し、「キャリア構築理論」として発表したマーク・サビカスによって、キャリア・アダプタビリティの概念が確立しました。
3.ライフ・テーマ
「なぜそのような職業を選択するのか?」「なぜ働くの?」に対する答えとして、「ライフ・テーマ」を挙げています。
分かりやすくいうと、一人ひとりが働く行動の意味づけを主観的に行っていくことです。
人生において、仕事は単純にお金を稼ぐだけの手段ではありません。自分のキャリアを振り返れば、経済的なもの以外にも仕事の中で価値を見出せた経験、また自分の価値に基づいて職業選択や行動をした経験が誰しもあると思います。
一見バラバラに見える自分のキャリアも、キャリアに一貫性を持たせて、価値のあるものにする枠組みが「ライフ・テーマ」になります。
では、どのようにライフ・テーマを探索していくのでしょうか?
その方法として、サビカスは自らのキャリア・ストーリーを人に語ることを重要視しています。
このストーリーやナラティブ(物語)を重視する考えを踏まえ、2010年以降のサビカスは、キャリア・カウンセリングの具体的な実践方法を「ライフデザイン」という言葉で論じています。
これはナラティブ・セラピーという心理療法がベースとなっています。
ライフ・テーマを探す実践的なアプローチ
サビカスは、キャリア構築において「自分の内面にすでに存在する自己を実現する」という考えを批判的に考えています。
つまり、カウンセラーと言葉でコミュニケーションをし、その会話の中から何らかの意味や価値に気づいていき、ライフ(人生)をデザインしていくことが出来ると考えています。
サビカスのライフデザインでは以下の介入を基本とします。
① 小さなストーリーを通じてキャリアを構築する
② これらのストーリーをいろいろな見方から見直して(脱構築)、語りを再構築する
③ 次の行動へつながる新たなキャリアのストーリー、将来像をともに作り上げる(共構築)
①の「小さなストーリー」はクライエントのライフ・テーマを明らかにする手がかりにするために用いられ、キャリア構築インタビュー(career construction interview:CCI)のことです。
具体的に以下の5つの質問が用意されています。
- 少年/少女時代には誰を尊敬していましたか?
- 雑誌やテレビ番組は見ますか? その中で好きなものは何ですか?
- 好きな本や映画のストーリーは何ですか?
- 好きなことわざやモットーは?
- あなたの幼い頃の印象に残っている思い出について3つ教えてください
一見すると「キャリア」とは無関係に思えますが、それぞれに意味があります。
これらの質問により、自己概念を表すものや興味がある環境や活動、転機に対する視点を理解する一助になるとしています。
このような質問と回答の対話は、その人のキャリア構築の土台となるライフ・テーマ探索において有用であると、サヴィカスは説いていますが、解釈が難しいため、しっかりと留意点などを学んだ人がキャリア構築インタビューを使用することが望ましいとされています。
まとめ
変化の激しいVUCA時代の代表的なキャリア理論家であるサヴィカスの「キャリア構築理論」について解説してきました。
目まぐるしい変化の中で適応しながら自分のキャリアを作り上げていくことは、簡単なことではありません。
しかしながら、キャリアコンサルタントなど他人に自分のキャリアを語り、振り返ってみれば、仕事に対する価値や意味に気づき、自分らしい1つのキャリアの物語を描けるかもしれません。